祖谷では古くから、平地が少なく急峻な崖地が多いという過酷な自然環境を活かした農業が営まれてきました。「活かした」というよりも、この地で人々が生きていく為にはそうせざるを得なかったというのが正しいのかもしれません。

急峻な地形は水はけがよく、農作物の成長に必要な養分が流れ出てしまいます。気候も山地特有の厳しさがあります。ずっと昔から祖谷の人々は、そんな厳しい環境の中で石垣を積み上げて民家を建て、その間を縫うように小さな畑をつくり、それを代々守りぬいてきたのです。

その畑からは、個性が強く、それでいて素朴な味わいのたべものがうまれます。


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ごうしいもは、祖谷の過酷な自然環境から生まれた小さなじゃがいもです。身がしっかりしているため調理しても身崩れしにくく、味は濃厚です。

米が取れなかった祖谷の人々にとって、保存もきくごうしいもは、主食といってもいいほど、年間を通して多くの料理で使われます。大きな種類のじゃがいもが簡単に手に入る現在でも、祖谷の人々はこのいもを大切に受け継いでいます。

特にひらら(平たい岩)の上に味噌で土手を作り、ごうしいも、あめご、豆腐、季節の野菜などをのせて焼く「ひららやき」は、とても豪快な祖谷の郷土料理です。






祖谷の環境は、田んぼを作るのには不向きでしたが、その代わりにそば栽培に適していました。甘みが強く香り高い良質のそばが実り、そばは祖谷の代表的な農産物になりました。

祖谷のそばは、一本一本が太くて短いのが特徴です。これは、そばを打つ際に小麦粉などの“つなぎ”をほとんど使わず、切れやすいためです。

祖谷では、麺にして食べるだけではなく、そば米を雑炊にしたり、そば粉を練って食べたり(そばがき)、汁物に混ぜたり(そばすべし)して食べるのも一般的です。





朝深く霧が立ちこめ、日照時間が少ない祖谷の渓谷はお茶の栽培に理想的な環境です。祖谷の中でも、特に山深い落合集落のある東祖谷で飲まれるお茶は、薄茶色に濁った深みのある番茶です。

東祖谷の番茶は、ほとんどが自給自足のために作られるのみで、地域外にはほとんど出まわっていません。





山深い地域であることは、農作物だけではなく、食材の作り方を変えることもありました。祖谷の豆腐がとても固く作られ、「岩豆腐」と呼ばれるのは、山道を登り下りするその運搬の過程で簡単に崩れることがないようにとの知恵からでした。

この固く崩れにくい岩豆腐と、小さなごうしいも、こんにゃくを竹串に刺し、味噌を塗って囲炉裏で火にかけて食べる「でこまわし」は、祖谷の最も特徴的な料理です。囲炉裏端に座りながら、くるくる回しながら焼く様子が「でこ(人形)」に似ていることからそう名付けられたそうです。